発達障害は現代病?
発達障害は現代病?
未成年の少年少女が犯罪を犯したとき、その加害者が発達障害であると大きく報道されることがあります。その最初が、2000年の豊川市で起きた殺人事件なのですが、その後もたくさんの発達障害者の犯罪が報道されています。
発達障害者は犯罪を犯しやすいのでしょうか?これについては、近年は明確に否定されています。むしろ、圧倒的に被害者となりやすいということがわかっています。
発達障害者が起こした犯罪として初めて報道されたのが2000年ということは、それ以前は発達障害と犯罪が関連づけて報道されることはなかったということです。昨今ではクラスの1割が何らかの発達障害・学習障害を持っていると言われています。これは、30人クラスで3人の発達障害の子がいることになり、割合として多く、無視できるものではありません。
では、発達障害というのは急に増えたのでしょうか?現代病なのでしょうか?
私は「そうではない」と考えています。すなわち、高血圧という病気が発見される前から高血圧という病気がおそらく存在したのと同じように、発達障害(自閉症スペクトラム障害)という病気が発見される前から、発達障害(自閉症スペクトラム障害)という人たちは存在したと思われます。
例えば江戸時代、もしくはそれ以前、農家で生きている人の中に天気にこだわりがあり「何年前の天気でも覚えている」という、今で言えば自閉症スペクトラム障害の人がいたとします。しかし、この人は毎日の天気を見て、「この10日間の天気は10年前の◯月◯日からの10日間と全く同じだ。だからこの後には嵐が来るに違いない」と同じ村の人に伝えたとします。普段は変わり者と思われていても、その結果難を逃れたのであれば、その繰り返しによって生き字引として頼られるようになったかもしれません。
ここで「自閉症スペクトラム障害」という概念の変遷について考えてみましょう。
私が生まれたのは1979年ですが、この時代は「自閉症」という言葉の中には「言葉の遅れや知的障害を伴う」という意味が含有されていました。逆に言えば、言葉の遅れがない、知的障害を伴わない自閉症はいないと思われていたのです。前者のことを現在は「カナー型自閉症」と言います。これは、1943年にアメリカの児童精神科医であるレオ・カナーが初めて報告したことに由来します。逆に言えば、カナー型の自閉症であっても、まだ80年の歴史しかないのです。
カナーよりも有名なのは「アスペルガー症候群」という言葉でしょうか。この言葉は、現在では公的な診断名から消えています。これはウィーン大学の小児科医であったハンス・アスペルガーが1944年に4人の少年について報告を行ったもので、彼が成人するまで追跡調査した1人の子については、のちに天文学の教授となり、ニュートンの業績の間違いを指摘したという事実が残っています。これこそが「言葉の遅れがない、知的障害のない自閉症」の最初でした。しかし、第二次世界大戦中にドイツ語で発表されたアスペルガーの業績について注目されるには、その後1981年のイギリスの研究者、ローナ・ウィングの報告を待たなければいけません。現在においてはアスペルガー症候群の名前は一人歩きしていますが、まだ40年そこそこの歴史しかありません。また、ハンス・アルペルガー自身の考え方として『大多数の自閉症の人々にとって自閉症の特徴は利益よりも障害であり、重度障害の人々は社会的価値がほとんどない』と主張しています。実際に自分の患者を収容所に送り、彼らが殺されていることから、「ナチスの協力者」として列挙され、おそらくそのことによりアメリカの診断基準であるDSMから彼の名前を冠した疾患名が消えたのではないかと私は推測しています。
何より、「自閉症っぽい特徴」というのは、誰しもに存在します。「スペクトラム」というのはそういうことです。白でも黒でもない、グレーの濃度が薄い人から濃い人までたくさんいて、今の世の中では白30%黒70%のグレーの人から病気と定義しよう、という考え方です(白30%黒70%というのはただの例です)。
ですから、そのラインを超えていても周囲の環境に恵まれて幸せに暮らしている人もいれば、そのラインを超えていなくても、周囲の環境に恵まれずうつ病になってしまう人もいます。
さっきの農家の人の例のように、寛容でのびのびと自閉症スペクトラム障害の人が生きていた時代はあるでしょう。しかし、今はそこまで世の中は寛容ではないのかもしれません。だからこそ、1割の有病率があると言われる所以ではないでしょうか。